髙橋 氏にインタビュー
髙橋 正俊 氏のキャリアとバックグラウンドについて
髙橋 正俊 氏は株式会社タップルのCMOとして、恋活マッチングアプリタップルのマーケティング全般を統括しています。2005年に株式会社サイバーエージェントに入社後、広告代理店事業に13年間携わり、ダイレクトレスポンス型の広告だけでなく、デジタルでのブランディング広告にも従事しました。
その後、2019年にサイバーエージェントグループ内の株式会社タップルに異動し、ダイレクト広告を担当。2020年3月から同社のマーケティング責任者を務めています。
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タップルについて
タップルは毎月1万人以上のカップルが誕生しているマッチングアプリです。マッチングアプリ利用満足度では、No.1を獲得(*)。コアユーザーは20代で、婚活目的というよりも、カジュアルな恋愛を楽しむ層がメインのターゲットです。
*ゼネラルリサーチにて、マッチングアプリ10社を対象にしたサイト比較イメージをインターネット調査、調査期間:2021年3月23日〜25日、調査対象:全国20代〜30代の男女1008名
タップルの事業でどのようなことを担当していますか?
マーケティングの責任者として、ブランディングから、広告、自然、登録~課金導線の最適化など、コンバージョンに至るまでのファネルの全領域に携わっています。
配下にある複数のチーム体制で、プロモーションだけでなく、プロダクト開発に関わる部分など、マーケティングに関するものは幅広く関わっていると言えます。
新型コロナウイルスのビジネスへの影響はありましたか?
新型コロナウイルスの影響で、直接会うことが難しい状況になった一方で、人と接することができない寂しさからサービスを利用してくださるユーザーも多くいました。
また、新しくオンラインデートができるビデオチャット機能を実装したことなどもあり、ビジネスとしてはプラスの影響が多くありました。
タップル社が実施したコロナ禍における恋愛・婚活に関する意識調査では、調査対象となったタップル利用ユーザーの約8割の方が新型コロナウイルスの流行以前と比較して、パートナーがほしいと思うようになったという結果も出ており、コロナ禍でマッチングアプリ業界全体が成長した可能性があります。
今のマーケティング業務において大事にしている考え方はありますか?
マッチングアプリ業界は徐々にレッドオーシャン化してきており、他社と同じことをやっていても競合より優位に立つことはできません。
競合優位を築くためにも、常識にとらわれないユニークさを大事にしています。競合が地上から弓で的を狙っている中で、ビルの上から鉄砲で的を狙撃するようなイメージです。
私はとりわけマーケティングに特化したキャリアを歩んできたわけではありません。
しかし反対に「マーケターはこうあるべきだ」という通説や、常識、一般論、過去の経験のようなルールに縛られずに、事業をゼロベースで考えられることが強みだと考えています。過去に効果が出なかった方法でも本当に効果がなかったのかすべて疑うようにしています。
思考のMECEと呼んでいますが、「表層思考」と「深層思考」の2つの考え方をもつように意識しています。
「表層思考」とは一般論やセオリーのことを指します。思考カロリーが少なく、リスクも低く、他者から賛同されやすい特徴があります。
逆に、「深層思考」とは前提を疑い、非常識なことを考えることを指します。思考カロリーが多く、リスクも高く、他者からも拒絶されやすいです。
当然一般論は必要ですが、他社と同じことを考えていても差別化できないので、「表層思考」と「深層思考」の両方の思考で考えた上で、成果が出る方を選択するようにしています。
社内のメンバーにも、表層思考と深層思考の両方を持つことが大事だと伝えています。
現職の前は、サイバーエージェント社において広告代理店のお立場として業務に関わってきたと伺っています。これまでの代理店側でのご経験やお立場から現在の業務に活かせていることはありますか?
Web広告を13年ほど担当してきたこともあり、PDCAサイクルの中で「Do(実行)」を重視しています。Web広告は出さないとユーザーの反応がわかりません。
そのため、まずトライして結果を見ながら、考えたほうが早いと考えています。力を入れた1つの広告を試すよりも、10個を試してみて良いものを残す方がよい結果が得られると考えています。
マーケティングファネルの捉え方やKPIの考え方は、Webに携わってきた経験が長かったせいか少し特殊な部分があるかもしれません。
よく妄想するのですが、もしテレビとインターネットが同時にこの世の中に生まれていたら、各マーケティングファネルへの予算アロケーションバランスはどうなっていたのだろうか?境界線が曖昧なブランドとダイレクトのKPIは分けたのだろうか?クリエイティブの考え方も分けたのだろうか?などゼロベースで一度自分の頭で表層思考と深層思考の両面で考え、正しいと思う方を実行しています。
その上で、売上への貢献も自分が正しいと思うやり方で定量化して、PDCAを回しています。
また、代理店業に13年携わったことで、さまざまなサービスや商材に触れたことも今の経験に繋がっています。
全く異なる業界でもマッチングアプリの訴求に活かせることがあります。
例えば、単品通販の事業などは参考になる点が多いです。1種類の商品に絞ってその商品を売り続けるスタイルは、サブスクリプションと通じる部分があり、「なぜ通販のこの施策はマッチングで行われていないのだろう」と考えたりすることもあります。
マーケティングにおいて、代理店さんと協業される場面も多いと思いますが、協業の仕方で工夫されていることはありますか?
代理店と広告主には逆相関関係があると思っています。
つまり、広告主側は、広告費をできるだけ抑えて、多くのサービスを得たいと思っており、一方で、代理店側は生産性向上の為にできるだけ広告費を多くして、サービスを抑えたいと考えていることがあると思います。
この差を埋めるのは広告主の一つの仕事だと思います。広告主としての理想を自己開示し、インプットすることで、代理店の方々に把握してもらうことが大事だと思っています。そして、代理店の方々からのアウトプットに対して、プラスとマイナスのフィードバックをしっかりと行い、ズレを修正することが重要です。
結果、広告主と代理店で考え方を100%シンクロさせることを目指します。そうすることで、代理店の方々もチームの一員として自走してくださるようになり、広告主のマーケティング活動のパフォーマンスが最大化されるようになります。
組織づくりや人材育成で重視していることは何ですか?
相手に理解してもらえるよう、誰が見てもわかりやすい資料やコミュニケーションを心がけています。
例えば、見栄を張り業界用語を多用すると、受け手に理解してもらえないというのはよくあることだと思います。
そうではなく、誰が聞いても理解できる言葉で説明することが大事です。誰が何をやっているか理解できる状態にすることで、よい情報が自然と集まりやすくなります。
わかりやすい言葉で伝えることは社内のメンバー内でも徹底させており、発信している情報の質が徐々に高まっているのを感じています。
また、組織づくりにおいては、スキルやマインドよりも、社員の「人格」を重要視しています。例えば、アシスタントさんがミスをした時に、「何で間違えたの?」という他責でなく、「何で間違えさせたのだろう?依頼の仕方が悪かったのかな?」と自責の念を持つ社員は自然に成長していきます。
人格が高い社員が集まり、心理的安全性を高めればよいアイデアがどんどんと出てきます。様々な施策の実行も人格密度が高まるとすごいスピードで進みます。