水谷 氏にインタビュー
Duolingo社の日本カントリーマネージャーとして、語学アプリ「Duolingo」の、日本国内向けのマーケティングを担当しています。主に国内における新規ユーザーの獲得に取り組んでいます。
2020年にDuolingo社に入社する前は、株式会社ミクシィにて広告営業とプランニングを経験した後、スマートフォンゲーム「モンスターストライク」の北米進出のマーケティングを担当しました。
その後、17LIVE株式会社に入社し、マーケティングの責任者として、マス、デジタル、PRにわたる幅広い業務を経験したのち、Duolingoが、日本への参入を本格化するタイミングで同社に入社しました。
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Duolingoについて
Duolingoは、世界中の誰もが楽しくアクセスできるように設計された無料の語学アプリです。5億人以上に利用されている世界で最も人気のある言語学習プラットフォームで、ユーザー同士で競い合う、ポイントを獲得してレベルアップできるなど、ゲーム感覚で学習できるように設計されています。
また、リーディング、ライティング、リスニング、スピーキング練習のすべてを含む1セットを5分程度で受講できるため、外出先や隙間時間でも気軽に継続できます。
英語をはじめ、中国語、スペイン語、フランス語など、延べ40言語に及ぶコースを提供しています。
さらに、英語力をオンラインでテストするDuolingo English Test (DET)を提供しており、世界で3000以上の教育機関で受け入れられている言語資格の認定オプションを、学習者が手軽で便利に受験できる方法で提供しています。
ご自身のミッションと、日本で行っているマーケティング活動について教えてください。
DAU(デイリーアクティブユーザー)を成長させることにフォーカスし、マーケティング活動を行っています。
米国では、口コミでユーザー数が拡大していった背景もあり、ソーシャルメディア、PR、インフルエンサーマーケティングの3つの定常的な施策を軸に認知獲得を図りながら、山場を作っていくキャンペーンをスポットで実施しています。
そして、これらを複合的に組み合わせることで、ユーザーの拡大を図っています。
PRは、メディアの種類と露出内容からスコアリングを行う独自のPR測定指標をKPIに据えて実施しています。ソーシャルメディアでは、現在運用しているTwitterのユーザーエンゲージメント強化に注力しています。インフルエンサーマーケティングは主にYouTuberとのタイアップを実施しています。
インフルエンサーマーケティングに関しては、語学関連のYouTuberの少なさや波及力といった点を鑑みて、語学とは直接関係のないYouTuberを起用することも多いですが、語学に興味を持ってもらえそうな企画の組み立て方や親和性の高いジャンルのリサーチを探るなど、仮説立てと検証を繰り返しながら取り組んでいます。
直近で大きな成果に繋がった具体的なキャンペーンはどういったところですか?
2021年6月に、日本語話者向けのフランス語コースのローンチに合わせて、日本初のスチーム生食パン専門店として話題の『STEAM BREAD EBISU』とコラボレーションしたイベントを行いました。来店者が店頭にてフランス語でパンを注文すると、フランスパンが無料でもらえる企画を実施し、合わせてティザームービーの制作も行いました。
この施策では、DAUや新規ユーザーの獲得ではなく、「Earned Media Moment」すなわち、パブリシティ獲得機会の創出を目的に掲げ、純粋なPRコンテンツとして企画、実施しました。
ユーザーインタビューから導出したベネフィットをもとに、キャンペーンコンテンツに落とし込むといったプロセスで展開した結果、多くのパブリシティを獲得でき、PR目標は129%の達成につながりました。
ミクシィでは日本発のプロダクトの海外展開、17LIVEとDuolingoでは海外発のプロダクトの日本展開をご経験されていますが、それぞれ、クリエイティブで意識されていたポイントはどういったところですか?
これまで3つのアプリのマーケティング活動を通じて、国内、国外向けのクリエイティブ展開に携わってきました。ユーザーに“きちんと刺さる”クリエイティブづくりのためには、現地のユーザーのインサイトをしっかりと把握した上でベネフィットを定義し、それを軸としたクリエイティブを開発していくことが大切であると強く感じています。
北米マーケットへの進出に携わったモンスターストライクでは、ハリウッド俳優の起用やゲーム内のモンスター達のデフォルメなど、現地のカルチャーや空気感を強く意識した動画クリエイティブを展開しました。
しかしながら、日本からの“想像”による要素が多い施策となってしまったことや、本来、クリエイティブ開発の軸とすべきユーザーインサイトやベネフィットが明確ではなかったため、結果的に想定していた成果にはつながりませんでした。
そこでの気づきを踏まえ、17LIVEでは、まず膨大な数のユーザーインタビューを実施し、その中で、アプリの認知・流入経路や、ユーザーが感じているアプリの魅力、日常生活におけるペインポイント、潜在的な欲求といったユーザーインサイトを把握することに徹底的に注力しました。そして、そこから見えた課題やストロングポイントをもとに17LIVEのベネフィットを定義し、それに沿ったクリエイティブの開発とメディアチャネルの選定を行い、最注力施策に据えたTVCMを実施し、ユーザー数を大きく伸ばすことができました。
現在、日本における新規ユーザー獲得に注力しているDuolingoでは、特にクリエイティブに重きを置いており、ユーザーインタビューを通じて定義したユーザーベネフィットをもとに、国内のクリエイティブ・エージェンシーと協業しながら、日本独自の動画広告を展開しています。これにより、グローバル共通のクリエイティブを展開していた際と比べてCPIの大きな改善にもつながっています。
海外発のサービス/プロダクトを日本で展開する上で苦労もあるかと思いますが、ご自身の経験や社内の調整なども踏まえて、日本展開を成功させるコツがあれば教えてください。
これは、Duolingo独自のカルチャーとも言えるかもしれませんが、本社のメンバーが日本に愛着を持ってくれていることや、日本市場の特殊性についての認識をもともと持ってくれていることが、スムーズな業務の遂行につながっています。
日本市場におけるユーザー特性や、そこに向けた施策の方針を提示することもあれば、逆に本社側から、日本での有効な施策について教えて欲しいといった要望もあり、お互いを尊重し合えるとても良い関係性ができています。
例えば、グローバルで共通する施策の方向性が示された際には、日本のマーケットにおける適合性を見極めるようにしています。
その上で、日本向けにカスタマイズすべき部分については社内での理解を得られるように、日本のユニークさや他のマーケットと違う部分を明確に伝えながら建設的な議論を行っています。
ゲーム、ライブ配信、教育と様々なアプリのマーケティング経験から得られた共通するスキルや、他のマーケターの方々にも実践してほしいマーケティングのTipsはありますか?
私の経験をもとにお話しすると、マーケティングにおいて最も重要なことは「ユーザー理解」です。
そのためにまずは、“ユーザーの声を聞く力”、即ちユーザーインタビューをはじめとしたユーザーリサーチの手法をきちんと学び、実践していくことがとても大切です。
そして、ユーザーインタビューのスキルを高めていくためには、とにかく実践あるのみだと感じています。
少し基礎的な話にはなりますが、参考書籍などで進め方をある程度把握した上でインタビューを繰り返す、その上で、不明な部分が出てきた時は自分で調べる、あるいはプロのインタビュアーの方にアドバイスを乞うといったことを繰り返すことで、様々な場面で応用の効くスキルとして体得することができます。