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面白法人カヤックのプロデューサーが語る、グローバルで躍進するためのハイパーカジュアルゲーム運営の道のりと市場のこれから

by 村上雅哉 氏 | 9月 16, 2022

村上氏のキャリアとバックグラウンドについて

大阪大学で情報科学の博士号を取得。アカデミアには進まず、2019年にゲーム事業部のアシスタントプロデューサーとしてカヤックに入社、ソーシャルゲームの開発チームに参画しました。その後、起業家支援事業や他社への出向など、カヤックらしく短いスパンで多様な案件に関わったのち、2020年からはゲーム事業部に戻りハイパーカジュアルゲームのチームに入りました。2022年からゲーム事業部のプロデューサー・事業部長を兼任しています。

インタビュー記事はこちらをご覧ください。

株式会社カヤックについて

1998年に合資会社カヤックとして設立。7期目の2005年に株式会社カヤックとして事業を再スタート。自らを「面白法人」と称するカヤックは、世の中を面白くしたり、周りが面白く生きることに貢献したりするために、「つくる人を増やす」ことを経営理念に掲げています。ブレスト文化による発想力・企画力、高い技術力を強みにして、ゲームアプリや広告・Webサイト制作を始め、最新テクノロジーと独自のアイデア力を掛け合わせた新しい体験を提供しています。

面白く、主体的にゲーム作りをしようという想いからスタート

弊社では「ぼくらの甲子園!ポケット」や「キン肉マンマッスルショット」といった7周年を超えるヒットタイトルがあり、2010年代後半にかけてソーシャルゲームをもっと作ってヒットさせていこうという流れがありました。一方で、ソーシャルゲームの市場も競争が厳しくなり、意図したような成果がでない時期がありました。また、ソーシャルゲームは開発規模が大きくなり、開発期間も長くなっていったため、世の中的にもゲームの開発現場は苦境だということが言われ始めていました。社内でも、みんながより面白く主体的になれるゲームづくりをしたいという想いや、ディレクターだけでなくエンジニアやデザイナーなどのクリエイターのボトムアップな発想でゲームづくりをしたいという考えが強くなって来ていた頃でもあります。

そんな中で、2017年頃からアプリ広告やアドテク技術の発達を背景に、VoodooやKwaleeなどを筆頭としたハイパーカジュアルゲームの市場が拡大してきました。そこで、このハイパーカジュアルゲームというフレームを使えば、自分たちが面白いと思うゲームを小さくつくって市場でテストしてチャレンジしてみるということができ、面白く主体的にゲームをつくりたいという思いとも上手く合致するのではないかと考えたのがハイパーカジュアルに取り組み始めたきっかけです。

ただハイパーカジュアルも作ってすぐ当たるという物ではないので、なかなか厳しい結果が続くこともありました。ハイパーカジュアルのチーム自体もうまくいくのかという疑念がうまれてきたくらいの時に「Park Master」のアイディアが生まれ、プロトタイプテストをしてみたところCPIもLTVもよい結果が出て、ローンチできると判断したのが事業として成立するようになった先駆けです。その後も試行錯誤を繰り返しながら「Noodle Master」や「Paint Dropper」といったタイトルをつくることができ、年に3〜4本程度のペースでコンスタントにタイトルを出せるようになっています。私が入社した頃はゲーム事業部もソーシャルゲームが主軸だったのですが、今ではソーシャルゲームとハイパーカジュアル両方でゲーム事業を引っ張っていくような形になっています。

新しいことを面白がり自分ごと化する精神が奏功

日本は大手ゲーム会社のお膝元なので、コンシューマーゲームやAAA(トリプルエー)タイトルを見ながら育っている消費者や、ゲームクリエイターの方が多いので、カジュアル過ぎるが故のハイパーカジュアルへの抵抗感があるのではないかと想像しています。また、大手企業となると組織体制からくる手続の煩雑さ等がありカジュアルゲームの領域に気軽に踏み出しにくいという側面もあったのではないかと思います。

一方で、弊社は「新しい事も面白がろう、どんどんチャレンジしていこう」という姿勢を大事にしている会社のため、ハイパーカジュアルもハイパーカジュアルにチャレンジしてみようという感じの気軽さがあったのが恵まれていたポイントかと思っています。

加えて、弊社にはブレスト文化というものがあり、職能の垣根を超えてゲームのことを自分ごと化してアイデアを出し、どうやったらたくさん遊んでもらえるかを考えるという風土が元々ありました。そのため、全員がジェネラリスト的なところがあります。カジュアルゲームはプロダクトが小さいので、最初は1人でつくり、多くても3〜5人でゲームを作るような物なので、そういったジェネラリストが多い文化と相性がよかったというのもあるかもしれません。

データドリブンな改善をしつつも、長く遊んでもらえるためのゲーム体験を大事に

ハイパーカジュアルゲームの運営企業ならどこでもやっているような基本的なデータドリブン開発は弊社も押さえています。ハイパーカジュアルは多くの人に遊んでもらうので、サンプル数が潤沢にあり、統計的な手法でテスト、実験が可能というところがあると思います。ゲームの中のシステムにしても、広告にしても、アプリのアイコンなどにしても、ABテストをしながら、広告のCPI、ゲームのLTVやリテンション、プレイタイムといったKPIが改善しているかどうかしっかりデータと向き合いながら開発をしています。一方で、弊社はどちらかと言うとアイデア勝負の会社なので、ブレストで思いついた「こういうことをやったら面白いのではないかな」というアイデア力を武器にどんどん取り組んでいくところが強みかもしれません。

UAにしてもマネタイズにしても、やった方が良い事がいくらでもある中で、重要なところから押さえていこうとすると、ゲームそのものに向き合った方が、結果的にCPIやLTVといった各KPIも改善されるのではないかと考えています。運用を続ける上でアドテクなどを駆使したテクニカルなアプローチももちろん重要だとは思うのですが、それよりも、ゲームのコアの部分を分かりやすく魅力的に伝え、インストールしてからは長く遊んでもらうことを念頭に置いています。より影響度の大きいところから順番に着手している結果、UAもマネタイズも基本に忠実にという風になっています。

日本は世界の一部に過ぎないという捉え方

グローバル展開に関しては、最初から日本は世界の中の一部としてしか捉えておらず、ハイパーカジュアルゲームのテストは、日本ではなくアメリカで行っています。先ほどの、重要なところから攻めるという考え方でいえば、アメリカが圧倒的に大きい市場なので、アメリカの市場でのKPIを見る所から始めています。テストマーケットをアメリカにしているからグローバルでスケールするというのはあります。

日本や韓国、中国のモバイルのストアの状況を見ると、やはり英語圏のストアとは雰囲気が違います。英語圏のチャートにいるゲームは必ずしも日本のチャートとは重ならず、日本でしか流行ってないゲームも多いです。そういうこともあり、ゲームはこういうものだという日本人が思うゲームのイメージは、グローバルでスケールするようなゲームを作る上では足かせになる可能性があるので、そこは日本の企業は気をつけた方が良いかもしれないと思っています。

なんとなく、日本では2D系、カートゥーン調のクイズ、脱出ゲーム、育成ゲームなどがうけやすい感じはしますが、アメリカなどの海外のストアではあまり上位にランクインしているイメージはなく、海外ではどちらかと言うと3D系のものなどが多いかと思います。日本はやはり漫画大国というところもあるので、そういった独自に発達したポップカルチャーが国民の嗜好性に繋がっているのかもしれません。

ハイパーカジュアルゲームは高LTV化とプラットフォーム多様化の流れ

ハイパーカジュアルゲームは、まだ新しい市場であるということもあり、比較的成長しやすい領域のように見えます。しかし、モバイルゲームやソーシャルゲームと同様、少しずつ競合が増え、リッチなコンテンツを求められるようになってきているのではないかと思います。世の中に存在するモバイル端末と人間の使える時間は限られているので、どうしてもどこかでユーザーの奪い合いに直面すると思います。

そこで、LTVが高い方がよりユーザー当たりの広告費を使えるため、ハイブリッドカジュアルのような概念が生まれてきて、広告だけではなくIAPも入れてハイブリッドでの収益化を狙うゲームが徐々に増えてきています。また、IDFA取得のオプトイン化や広告表示ガイドラインの強化などで広告価値が下がるといったハイパーカジュアルゲームにとっては逆風の流れもしばしば起こります。その意味で、少しずつハイブリッドカジュアルやカジュアルミッドコアのような方向へシフトしていくと捉えています。

また、Metaがインスタントゲームにより注力し、TikTokがベトナムでゲームのテストを行い、LINEとVoodooがコラボをし、Netflixも会員向けにカジュアルゲームを配信するなど、ハイパーカジュアルゲームがより多様なプラットフォームで展開されていくようなシナリオも考えています。また、NFTを組み込んだカジュアルゲームや、Play to Earnの領域でカジュアルゲームが発展していく可能性もあると思います。

面白がりながらゲームを作る

ゲームは映画、本、アニメなどのエンタメコンテンツと違ってインタラクティブにプレイヤーとプロダクトが対話するところが特に面白いと思っています。元来ゲームは、遊ぶのも面白く、つくるのも面白いものなので、これからゲーム領域にチャレンジする方は、日々あくせく働く中で忘れられがちなゲームの根本の価値を大事にして、面白がりながらゲームをつくっていってもらえればと思います。カジュアルゲームは、つくりかたは工房的でサイクルも早くとても面白いのですが、ゲームとしてまだまだ、もっと深みのある面白さをつくっていく必要はあると思いますし、市場全体がそうなっていくと思うので、両側面で面白がってもらえればと思います。

面白法人カヤックは、必ずしも面白い法人というわけではなく、面白い物をつくるためにはまず自分たちが面白がらなければならないという考え方を大事にしています。面白がっている人達がつくっている物だからこそ面白い物が生まれてくると考えています。逆に面白い物が生まれてきたとしても、つくっているクリエイター達が面白がってなかったらそれは良くないという思想もあります。そういった形で、面白がってゲームをつくる、という同志が世の中に増えていくということも僕らの願いの一つであり、ゲームづくりを通じて世界中に発信していければと思っています。